「情報の非対称性」とは情報が不均衡、一方が他方よりも情報を持っていて「情報格差」のある状態で、もともと金融取引などに関して経済学でもっぱら言われてきたことだ。現在は、情報が一方に片寄っていたり、秘匿されている状態であることの諸事例にも使われたりする。
情報論での概念だが、誰でもこのような状態については経験的に理解しているだろう。情報保有の不均衡は、必ず多く持っている方に有利に働く。
最近の議会選挙では、この非対称性を利用した方法が取られた選挙活動が行われ、出所不明の情報が出回った。本来なら知られないようなことを、さも知っているかのように喧伝し、それで選挙の行方を大きく左右し、後になって、それは実は間違っていたと開き直った。
情報が非対称なので、根拠がなくとも、巧みな行動をとったものに引きずられてしまった庶民も多かった。
選挙はさておき、現代アートは、もともと非対称な観念を操作するものだ。概念芸術はその最たるものである。
まずは、視えるものを否定する。見ることよりも、考えることへと導く。
このページの写真は、「マルセル・デュシャンの肖像(マルセル・デュシャンの5人による肖像)」と言うもので、撮影者は不明のようだが、写っている男性は同一人物で、アーティストのマルセル・デュシャンである。
彼がアメリカに移ってすぐの1917年に撮影されたもので、複数の鏡を使った撮影で、マルチプルに増殖した肖像になっている。
このようにして、マルチプル的、さらにはクローン的なイメージを、100年以上も前に創出している。
鏡を使っているので、鏡画面を挟んでは対称の世界だが、それが複数に組み合わさった多重な対称性のものである。だが見る者は、この写真に非対称的なものを見てしまう。でもトリックではなく、観念の操作なのだ。