速度感とイタリア未来派

速度感とイタリア未来派

吾等は世界に一の美なるものの加わりたることを主張す。  しか してその美なるものの  はやさ の美なることを主張す。広き噴出管の蛇の如く毒気を吐き行く競争自働車、 銃口を   でし弾丸の如くはためきつつ飛び行く自働車は Samothrake サモトラケ の勝利女神より美なり。
森鴎外「未来派宣言原題:一九〇九年三月十二日発|未来主義の宣言十一箇条」

未来派のアーティストたちが思い描いた世界は、先端技術によって導かれる未来だ。イタリ発祥のこの前衛芸術運動は、美術、文学、音楽、演劇、建築など多方面に及び、その後の前衛芸術のあり方の先駆を示したものだ。
未来派の持つスピード感は、現在の表現と比較しても、特異に抜け出ている。イタリア未来派は、ファシズムとの共鳴により、一時は政治的な文脈の解釈によって否定的に扱われたが、その前衛性によって直ちに再評価され現在に至っている。
そして彼らの国を跨ぐ活動は、ロシアにも飛び火し、ロシアの革命期にロシアの未来派を生み出した。イタリア未来派がファシズムに共鳴していったのに対し、ロシア未来派が社会主義革命に投じていったのは興味深い。またイタリアも、ロシアも、当時のヨーロッパの国々の中では、近代化に遅れた後進性を余儀なくされていた。しかし、どちらもがそれを超えた未来的なビジョンを生み出したのだ。

未来派宣言では、起草者のマリネッティは、「時間と空間は昨日死んだのだ。われわれは、偏在的な永遠の速度というものを生み出したいまや、もはや絶対のなかに生きている」と書いている。
これは先端の物理や数学、あるいは科学で語られる時空間よりも、むしろ身体で直感で感じられる速度感だ。
イタリア未来派で紹介される数々の作品群のなかでは、ほとんど取り上げられないが、おそらく未来派の画家たちは、もっともオートバイを描いた画家たちなのではないかと思われる。

https://thevintagent.com/2018/05/03/art-and-the-motorcycle-2-the-futurists/
彼らが描いたオートバイは多様で、最も速度を身をもって体感できる乗り物の魅力を描いている。機械そのものに直に乗っかるものだ。
この速度感は、イタリアの生得的なものかもしれない。未来派は、その後の優れたイタリアの自動車やオートバイの速度を実現するのに貢献したように感じる。
未来派は産業的でもあったのだ。

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